〔読み下し〕
太融寺淀殿の墓を弔う
大 阪 城 樓 壓 碧 涯 (大阪の城樓碧涯を壓す)
姉 豊 公 寵 縦 珠 帷 (姉〔いろね〕は豊公の寵珠帷〔しゅいろ〕 縦〔ほしいまま〕にす)
春 花 秋 月 依 君 麗 (春花秋月 君に依りて麗し)
窃 窕 嬋 妍 抱 嗣 期 (窃窕〔ようちゅう〕嬋妍〔せんけん〕嗣〔し〕を抱いて期す)
方 廣 鑄 銘 姦 智 將 (方廣〔ほうこう〕の鑄銘 姦智〔かんち〕の將
紅 蓮 劫 火 憫 憐 姫 (紅蓮の劫火 憫憐〔びんれん〕の姫)
今 聞 鐘 愴 太 融 寺 (今聞く鐘は愴〔かな〕し太融寺)
墓 石 香 煙 供 菊 誰 (墓石香煙菊を供うるは誰ぞや)
〔意訳〕
大阪城の威光は青い空の果て地平線まで届く勢いであった。
彼女は太閤豊臣秀吉公の妻妾のなかでも最も権勢を得て寵愛されていた姫で、
春の花も秋の月も彼女の麗しさには翳ってしまう。
美しくたおやかな仕草や容姿のあでやかさを太閤に深く愛され、
彼女は世継を産むことを約束されているようなものだった。
しかし方広寺の鐘銘に悪知恵を働かせた武将が、彼女を気の毒にも城ごと紅蓮の劫火で焼き尽くし命を奪ってしまった。
今彼女が辛い思いを抱いて聞く鐘は、方広寺のものではなく、眠っている太融寺の鐘だ。
墓石に香を焚き、菊を供える人は誰かいるのだろうか。